エマニュエル・トッドが断言するアメリカ、ヨーロッパ、そして日本が突き進む現実:『西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか』読了

歴史人口学者・家族人類学者 Emmanuel Todd:エマニュエル・トッドの『西洋の敗北  日本と世界に何が起きるのか』を昨日読了。

(確か2025年)1月頃、YouTubeの推奨で上がってきた ↓

【トランプは「敗北の大統領」となる】ロシア勝利を望む「その他の世界」l 日本の “真の敵”は アメリカだ l EU崩壊の原因はプロテスタンティズム減衰【エマニュエル・トッド】

を視聴し内容に興味を持ち、珍しくサイン無しで入手していた著書。

本書は

 序章  戦争に関する10の驚き

 第1章  ロシアの安定

 第2章  ウクライナの謎

 第3章  東欧におけるポストモダンのロシア嫌い

 第4章  「西洋」とは何か?

 第5章   自殺幇助による欧州の死

 第6章  「国家ゼロ」に突き進む英国 ー 亡びよ、ブリタニア!

 第7章  北欧 ー フェミニズムから好戦主義へ

 第8章  米国の本質 ー 寡頭制とニヒリズム

 第9章  ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す

 第10章  ワシントンのギャングたち

 第11章 「その他の世界」がロシアを選んだ理由

 終章  米国は「ウクライナの罠」にいかに嵌ったか  一九九〇年ー 二〇二二年

 追記  米国のニヒリズム ー ガザという証拠

 日本語版へのあとがき ー 和平は可能でも戦争がすぐには終わらない理由

の章立てに沿って、事細かに論が展開されていきます。

特徴的なことは

” 最後の一〇番目の驚きは、今まさに現実となりつつある「西洋の敗北」だ。戦争がまだ収束していないにもかかわらず、このような断言をすると驚かれるだろう。しかし、この敗北は確実なものだ。西洋はロシアに攻撃されているのではなく、むしろ、自己破壊の道を進んでいるのだ。”(p28)

と蓋然性の高い近未来を予想しているのではなく、(エマニュエル・トッドの)歴史人口学者、家族人類学者という専門性に基づいて断言で綴られていること。

要因として指摘されている

” ウェーバーだ断言したように、プロテスタンティズムが西洋の飛躍的発展の基盤だったとしたら、今日、プロテスタンティズムの死は、「西洋の解体」の原因となり、情緒のない言い方をすると、「西洋の敗北」の原因となっているのである。”(p153)

をはじめ私自身が背景を理解していれば、より突きつけられている現実の重さを実感させられたでしょうが、それでも

” EUは、再結束して前進するために、外敵を必要としていたのである。しかしこの楽観的な物言いは、もっと暗い真実を隠している。EUは、複雑すぎて管理不能で、文字通り修復不可能な機関であり、その制度は空回りしている。”(p182)

に、

” アメリカのGDPは、効率性、さらには有用性すら不確かな「対人サービス」がその大半を占めている。医者(オピオイドの件で見たように時には殺人者となる)、法外な高級取りの弁護士、略奪的な金融業者、刑務所の守衛、インテリジェンス関係者などがそこに含まれる。二〇二〇年、アメリカのGDPは、この国の一万五一四〇人もの経済学者の仕事を付加価値として計上していたが、そのほとんどが虚偽の伝導者であるのに、平均年俸は一二万一◯◯◯ドルにも達している。真の富の生産には繋がらない。”(p295)

及び

“アメリカの基本的な特徴の一つである貿易収支の膨大な不均衡を忘れてしまっている。アメリカ人たちは生産する以上にはるかに浪費しているのだ。”(p297)

といった現状認識から導かれる断言は説得力を帯びて論が展開していき、日本に関しても

” 中国に対して台湾と日本は、実際はアメリカによって守られていないと私は確信している。それを可能にする産業基盤をアメリカはもはや持っていないのだ。”(p355)

等、厳しい現実が示されています。

ウクライナ、ロシアといった国に関する情報(歴史、産業構造、国民性等)に蓄積が殆どない分、マスメディアから断片的に発信される専門家の見解を鵜呑みにしがちですが、今回のように400ページ超の圧倒的なボリュームでデータ、過去から解を示されると報道を通じている肌感覚とは一段、二段と厳しい現在地を知らしめられました。


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