寺島実郎さんに学ぶ、英国の国際競争力を支えるネットワーク戦略:『ユニオンジャックの矢 大英帝国のネットワーク戦略』読了

日本総合研究所会長、多摩大学学長で、報道番組等でコメンテーターとしても活躍されている寺島実郎さんの『ユニオンジャックの矢  大英帝国のネットワーク戦略』を読了。

水曜日に参加した特別講演会が縁で購入した一冊。

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内容も主だったところは講演のおさらいとなりますが、本を開いたところの「はじめに  「全体知」としての英国理解への挑戦」で

” 英国をグレート・ブリテン島に限定した欧州の島国と捉えてはいけないということである。

この国のポテンシャルはネットワーク力にある。”

とくに、五二か国を緩やかに束ねる隠然たる影響力、その中でもロンドンの金融地シティを中核に、

ドバイ(アラブ首長国連邦)、ベンガルール(インド)、シンガポール、シドニー(オーストラリア)を結ぶラインを「ユニオンジャックの矢」とイメージし、その相関をエンジニアリングする力に注目すべきである。”(p3)

という本書の根幹に据えられた見立てに始まり、「ユニオンジャックの矢」とは・・

” 英国が歴史的に強い影響力を及ぼし、現在も固い絆で結ばれている都市を、ロンドンを基点にして、

中東のドバイ、インドのベンガルール、東南アジアのシンガポール、そしてオーストラリアのシドニーと順に地図上にマークし結んでみると、見事に一直線に並ぶ。”(p56)

各都市の役割は・・

ドバイ >> 湾岸産油国のみならずイランまでも含む中東のオイルマネーを吸い込み、ロンドンのシティへと結ぶ金融センターとして機能している。

ベンガルール >> インドのIT立国を担う先端産業の集積地

シンガポール >> 東南アジア最大の金融センターであり、中国の成長力をASEAN(東南アジア諸国連合)に取り込む基点として機能する華人・華僑国家

シドニー >> 豊富な天然資源を背景として成長のめざましいオーストラリアの中心

これらの都市がネットワーク化されている潜在力として

” 英国のGDPの規模は世界第五位であるが、二〇一六年のGDPに関して、ここで言うユニオンジャックの矢に連なる五つの国、

英国、UAE、インド、シンガポール、オーストラリアの名目 GDPを足し合わせると六・八兆ドルに達し、これは日本(約五兆ドル)を凌駕して中国に次いで第三位となる。”(p58)

と、本書で展開されている論から英国に対する見方を新たにさせられました。

ユニオンジャックの矢(背表紙から)

工業生産力からネットワーク力の時代へ

また、世界情勢を捉える上で印象的であったのは、本の最後「おわりに ー英国への思い」で

” 昨年、二〇一六年の一人当たりGDPにおいて、日本は三・九万ドルであり、もはやアジアの先頭を走る豊かな国ではない。

シンガポールは五・三万ドル、香港は四・四万ドルであり、かつて英国の植民地だったこの二つの国と地域がこれほどまで豊かになっているという事実は重い。

GDPとは付加価値の総和であり、さしたる工業生産力もない国が「ものつくり」ではなく、サービス、金融、情報、物流で付加価値を生み出し、国民を豊かにしている事実に注目したい。

つまり、あらゆる知恵を駆使して付加価値を創出しているわけで、その知恵を生み出す触媒が「ネットワーク」である。”(p228-229)

という視座。

このあたりに、本書で指摘されている英国のしたたかさを知らしめられた思いでした。

今の「英国」を捉える

全237ページに及ぶ専門書となることから、読み始める前は相応の期間を想定していましたが、実際は3日間で読了に至りました。

中〜後半の近現代の世界史、日英の歴史は駆け足的となりましたが、報道、ニュース等でよく取り上げられる英国、イギリスに関して、

本書を手に取る前は「かつての大国」というイメージ、先入観を持っていましたが、

(本書)一冊を通じて英国の本質を知るに至り、「それだから今もヘッドライン級のニュースを放つ存在であり続けているのか」と、

英国について今までここまでの情報量に触れたことがなかったこともあり、学び多き一冊でありました。

 


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