ノンフィクションライター 栗田シメイさんが、マンション自治を取り戻すべく立ち上がった住民たちの1,200日に及んだ闘争を描いた『[ルポ] 秀和幡ヶ谷レジデンス』を一昨日読了。
YouTubeにアクセスしていた際、
【渋谷の北朝鮮と呼ばれたマンション】人気ヴィンテージマンション「秀和幡ヶ谷レジデンス」に起こったとんでもないトラブルとは?
推奨で上がってきた動画を視聴し内容に興味を持ち、書店で本書を見かけ(サイン無しでも)購入に至っていた経緯。
「渋谷の北朝鮮」とは強烈にして一度聞けば忘れ得ぬコピーですが、用いられることになった背景は
” 「マンションには54台もの防犯カメラが設置されており、住民は24時間行動を監視されています。自由とはほど遠い生活を余儀なくされているのです。まるで、独裁国家で暮らしているような。理事長を筆頭とした特定の理事たちが、過半数の委任状を盾に総会での議決権を独占し、やりたい放題やっている。そして、管理規約にない自分たちが定めた謎ルールをどんどん追加していった。”(p014)
という突端に、更に
・平日17時以降、土日は介護事業者やベビーシッターが出入りできない
・夜間、心臓の痛みを覚えて救急車を呼ぶも、管理室と連絡が取れず、救急隊が入室できなかった
・マンション購入の際も管理組合と面接があった
等、一部住民たちの不満が燻る中、
” 吉野理事長が就任当初は、特に住民間でトラブルの声は聞こえてなかった。しかし、20年ほど前に排水管工事の実施がアナウンスされたことで住民の間に疑念の声が上がっていく。5億円規模の大工事にもかかわらず、工事業者は指定され、見積もりは1社のみだったという。これに対して、住民側は相見積もりをとるべきだ、という意見も根強かった。これまで積み立ててきた修繕積立金に加え、1世帯あたり30万程度の追加の支払金が生じたことも、納得できない要因となっていた。”(p024)
なる象徴的な事案が発生し、
” この管理組合はおかしい ー 。”(p041)
と立ち上がった住民(たち)の試行錯誤、闘争の軌跡が克明に記されています。
異様さは次第に物件外に知れ渡るに至り、
” 周辺の不動産会社から、近隣の相場感は35平米で3,500万円前後であるが、現在1,500万前後まで資産価値が下落していること。”(p219)
という深刻な事態にも発展。
すぐそこに潜む危機
読み進め、背景が頭に入って早々(読書中)重苦しさが漂い、本来
” 管理組合に近い存在としては、PTAが挙げられることもある。区分所有者や保護者が、率先して役員に手を挙げるというようなケースはほとんど聞かない。むしろ、面倒事として避けられることの方が多いだろう。”(p215)
という中、決起した住民たちの思いが結実したことで得られた爽快感あれば、動けどももやもやを払拭出来ない後味の悪さほか、読後さまざまな感情が行き交いました。共同住宅に住まう者として自分ごとと捉えざるを得ない現実から漂うリアリティに、住民間の断絶から伝わる切実さに虚しさ等々、
また、巻末の「あとがき」には
“「分譲マンションで人気エリアにある関東や関西の物件は、所有者1人が2,000万円を拠出しても99%以上が建て替え困難との試算がまとまった。”(p233)
なる初めて突きつけられた現実もあり、読後も覆われた重苦しさから身近に潜んでいる深刻さを大いに知らしめられました。