中川淳一郎さんが電通と博報堂の実態から紐解く広告業界の知られざる内幕:『電通と博報堂は何をしているのか』読了

博報堂OBで現在フリーランスの著者 中川淳一郎さんの自ら経験に、十数名の電通及ぶ博報堂社員に取材して上梓された

『電通と博報堂は何をしているのか』を読了。

社員が自殺に追い込まれ、過酷な労働実態が社会的に物議を醸したり、東京オリンピックのエンブレム選考で不透明なプロセスが批判の対象となったり、

とかく注目の的となっている広告業界の内幕に、著者及び現役社員の目を通して、実態が明らかにされていくという内容。

電通にまつわる都市伝説の実態

電通に関しては都市伝説的に隠然たる権力が指摘され、著書も多く見かけますが、例えば

“・ 電通はテレビのキャスティング権を握っている。よってよく出演するタレントには電通の息がかかっている。

・こうしたパワーがあるだけに、芸能事務所に対しては枕営業を迫る

・電通は政財界すべてを牛耳っており、時の政権でさえ意のままに操ることができる

・電通はスポーツ業界にも入り込んでおり、実力のない選手であろうとも、スポンサー契約を盾に五輪代表やサッカー日本代表を送り込める “(p16-17)

という指摘に対して

” 確かに最後の「スポーツ」に関しては五輪、サッカーW杯とも完全に電通の利権が存在する。

しかしながら、一つ強調したいのが恐らくこの2大大会を日本を仕切れる団体など、電通以外はあり得ないということだ。

これについては田崎健太著『電通とFIFA』(光文社新書)を参考にしていただきたい。

いかに電通がダイナミックな仕事を行うかを過不足なく知ることができるだろう。”(p17)

という回答が示され一部については肯定されていますが、本の最後、総括的なまとめで

” こうして広告業界について長々と書いてきたが、業界人の話と自分の体験を考えるにつけ、「ただの社畜集団だな」としかやはり思えない。

どうしようもない業界であり、どうしようもない人物も多い業界ではあるものの、

案外「汚職」や「談合」的なものはなく、ビジネスのスタイルとしてはそこまでは汚れていない。”(p222)

とイメージとは裏腹とも感じられる結論が示され、それは

” そもそも代理店というのは「サービス業」なのである。客からの要求には何があろうと応えなくてはいけない。

「できません」と言った途端、別の代理店に業務を切り替えられることもままある。

特別な技術があるワケでもなければ、余人をもって代えがたい人材がそれほどいるワケでもないからである。”(p34-35)

業界の巨人 電通といえどもクライアントに指名されてこその存在であったり、

” 代理店の仕事は基本は「考える」ことが中心のため、何が100点なのか分からないのだ。

答えがないだけに、スタッフが雁首をそろえて3時間も4時間も会議を続けるのである。

結論がどうなろうが「全員で考え抜いたこと」が重要だと考えるため、とにかく会議の人数は多くなり、時間も長くなる。”(p36)”

という実態に、

” こうしたサービス業であること、答えがないこと、考え抜くことが仕事のため、過重労働になることから、いつしか自殺にまで発展してしまう広告業界。

唯一の解決方法は「75点ぐらい取ったらまぁ、OKとする」という実に意識の低いものでしかない。」”(p54)”

という宿命?に、自殺を招いてしまった長時間労働が常態化する背景が現実感を伴って説明されています。

広告業界のリアル

広告業界については、『気まぐれコンセプト』というマンガでも、その舞台裏が描かれているようで、

中川淳一郎さんが、博報堂入社後、先輩に社員に

” 「『気まぐれコンセプト』に出てくる広告業界の話ってむちゃくちゃなバカ話だらけですが、あれってどれくらい正しいのですか?」

すると先輩は真剣な表情をしながら黙考した。

もしやデマが描かれており、我が社は電通と共に著者と版元の小学館を訴える準備でもしているのか ー そう思ったら先輩はこう答えた。

「80%は当たってるな」

当時はガクッときてしまったが、これは正しい。”(p33-34)

と、広告業界についてご興味をお持ちの方など本書と合わせて手に取っていただけると業界理解が進むものと思われますが、

本書を読む前、マスコミ報道を通じて描いていた「ぼや〜っ」とした感じで描いていた業界イメージに対して、

逆の立場(内側)から事実なり、内情が示され、世の中的に時代の先端を行く華やかな業界と捉えられがちなところ

一部についてはイメージと合致した部分もありましたが、それはクライアントの信頼を得るための粉骨砕身ぶりに泥臭さと裏表になってのことで、

広告業界の実像を掴むという意味ではリアリティを存分に感じられる一冊でした。

 


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