春日太一さんが迫った23人の名優たちの生きざま、こだわり:『すべての道は役者に通ず』読了

映画史・時代劇研究家 春日太一さんの『すべての道は役者に通ず』を読了。

先月(2018年10月)開催された、春日太一さんと火野正平さんとのトークイベント👇の対象書籍として購入していたもので、
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当初は『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』に春日太一さんからサインを入れて頂くことが目当てであったものの、

「せっかく買ったんだから」と思って読み始めた本書(『すべての道は役者に通ず』)を読み始めると、登場されている役者の生い立ち、生きざまが興味深く、惹き込まれていきました。

本書へ頂戴したサイン

映画史を支えた23の俳優たち

登場する役者は石坂浩二さん、藤竜也さん、松平健さんといったビッグネームから、笑福亭鶴瓶さん、武田鉄矢さんと幅広く計23名。

目次 1/2(16/23)

読んでていて一番興味深かったのは、

” やっと食べられるかどうかの生活で四畳半一間で暮らしていました。それが十年近く続きましたね。

僕はどうしても好きになれなかった。ぬいぐるみみたいなものを着て演じろと言われた時は『やれません』と断って、半年間も仕事がなかった時もありました」”(p291)

と生きざまが色濃く伝わってきた滝田栄さんで、

NHK大河ドラマで『徳川家康』で主役(徳川家康)に抜擢され役作りで、徳川家康が少年時代、人質となって暮らしていた静岡の臨済寺へ

” 「『そちらで役作りをさせて頂けないでしょうか』と電話したら『ここは禅宗の和尚を養成する、日本でも特に厳しい道場です。修行僧でも逃げ出す世界ですからご遠慮ください』と言われたんです。・・中略・・

それで改めてお願いしたんです。『空気を吸う、道を歩くだけでいいんです。空気の味から、足の裏から家康が分かるかもしれない』と。・・中略・・

寺から逃げようかと思って庭掃除を終えると、玄関に倉内松堂老舗という禅師が初めて姿をお見せになられました。

『朝から晩までお部屋の電気がついていますが、お勉強は進みましたか?』とニコニコしながら聞いてくださる。

『考えれば考えるほど分からなくなって、本当にどこかへ消えてしまおうかと思っています』と正直に答えたら、老舗が庵に招いて煎茶を淹れてくださったんです。

一杯目は甘かった。二杯目は渋い。三杯目は苦い。『随分と味が変わりましたね』と申し上げたら

『甘い、渋い、苦い。甘渋苦の三つが揃って人生の味わいなんです』とおっしゃる。

その時に思いました。家康の人生は甘も渋もない。苦の極みの連続です。それを彼は超えて、戦国を終わらせた。

常人では耐えられない艱難辛苦に耐えた。それは客観的には格好悪いけど、それでも我慢して一つ一つ超えていった。

そして、最終的に不幸な時代を終わらせた。その凄さが家康なんだ。”(p300-301)

該当のドラマを視聴しておらず、また、滝田栄さんについても殆ど承知していませんでしたが、

演じることの舞台裏、凄みを実感出来て、特に印象に残されたパートでした。

俳優たちの素顔と演じることの矜持

23名分のストーリーが収録されていることから、惹き込まれたパートは点在し、

他でも

“「最初は浅野さんと芝居がかみ合わないんだよ。最初に食い違ったのは『五十年後の君を今と変わらず愛します』というシーン。

まず僕だけを撮って、それから切り返して彼女を撮るんだけど、向こうの芝居が僕は泣きながらやっちゃったんだ。

そうしたら、彼女は表情を変えずに横を向く芝居をした。彼女が凄く冷たく映ってしまうわけですよ。

トレンディドラマを頑なに堅守する浅野さんのお芝居と、隙があれば攻め込んでいく僕の芝居がどんどんヒビ割れて行きましてね。”(p251)

と、トレンディドラマの代名詞ともいえる『101回目のプロポーズ』でのお馴染みのシーンでの役者間のバトル、せめぎ合いといった後日談も興味深く、

俳優たちの人間くささに、プロ魂が多分に感じられ、最初は381ページに及ぶ厚みに腰が引けた感じもありましたが、

散りばめられた人間ドラマに存分の読み応えを実感することが出来ました。


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