十朱幸代さんが振り返った女優生活60年の軌跡、恋、そして「今」:『愛し続ける私』読了

女優 十朱幸代さんの自伝『愛し続ける私』を読了。

十朱幸代さんについては。お名前程度というこれまででしたが、

(2018年)9月に読了していた『美しく、狂おしく  岩下志麻さんの女優道』の影響から

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「他の女優さんのも・・」といった思いから「読んでみようかな」との心情にいたり、購入。

女優としての必然

本書には

” 私も母に連れられて、よく父の出る映画や舞台を見に行きました。母が芝居好きだったので、新派の公演や、日劇のレビューにも連れていってくれました。

ですから私は小さい頃から芝居というものに慣れ親しんでいましたし、舞台も映画も大好きでした。「大きくなったら絶対に女優になる!」と、幼いことから言っていたそうです。”(p20)

という幼少期の思い出に・・

” たまたま父のドラマ撮影のスタジオ見学にNHKに遊びに行ったら、新企画のドラマの出演者を探していらしたプロデューサーの方が、私に声をかけてくださったのです。

「君、カメラテスト受けてみない?」

私にとっては願ってもないチャンスです。そして『バス通り裏』の出演決定。

それにしても、よく何の経験もない私にこんなお役をくださったものだ、と思いました。”(p27-28)

と舞い込んで女優デビューのきっかけに、

” 映画全盛のあのころは、日本中あちらこちらに映画館があり、ひっきりなしに新作が封切られるような状況ですから、協定を守って自社の俳優だけで製作すると俳優が足りなくなうことがあります。

そんなとき、テレビ出身で、どの会社とも契約してない、私のような女優に声がかかるのです。”(p54)

という環境/運命の後押しに、

” 叱られたって、いびられたって、自分でやるしかないんです。めげているわけにはいかない。

だってもう舞台の初日は、決まっていて、どんどん日にちが迫ってきているんですから、それまでにやるしかない。

自分で自分に役を叩き込んでいくしかないんです。”(p92)

という平坦ではなかった大女優への道に。また、

” 恋愛って、魂と魂がぶつかり合うような感じですよね。その時の気持ちは、本人でしかわからない。ですから本当は、人に恋愛のことを話したこと、ほとんどないんです。

友だちにも話していない。しゃべってしまうと、壊れてしまいそうな気がしますもの。”(p127)

といったプライベートでの恋のお話しまで、本書の帯に

仕事、恋、別れ、痛み・・・  すべてを愛して「今」がある

とあり、一部、恋について言及された「第五章  私を成長させた恋」に、伏字箇所がありますが、率直に十朱幸代さんのこれまでのことが綴られています。

恋に揺れながら、貫かれた「女優」として生きる覚悟

本書を通じて、女優になるべく必然の環境、巡り合わせ、恋との間で揺れながら女優として生きた覚悟といったことが印象に残されましたが、

輝かしいだけではないこれまでのキャリアについて赤裸々に(近い形で)言及されており、

本の冒頭

” 人生を歩んできた痕跡は、仕事しかありません。でも不思議と、後悔はないのです。

だって、仕事を、出会った方々を、身近なものたちを、そして自分を、大切に愛してきた。そのことは、確かなものですから。

今までの人生、私はどの瞬間も、前を歩いてきました。終わってしまったことを引きずるのは性に合いません。過去のことは、すべて忘れたつもりでし。

でも今回、この本のために子ども時代からの私を思い返してみると、思い出すのは楽しいことばかり。

どうやら私はイヤなことはすぐ忘れ、楽しいことだけ、しっかり覚えているみたいです。”(p6)

「はじめに」で書かれてある十朱幸代さんのキャラクターが、全編に滲み出ている感じで、前向きな生きざまが伝わってきました。

今、現在は、女優道まっしぐらであったこれまでから、プライベートな時間割合が増し、

” 二者択一を迫られるといつも仕事を選んできた私は、とうとう一度も結婚というものをしませんでした。

自由の身でしたから、短い恋も長いお付き合いも、いろいろな恋をしましたけれど、でも、恋は終わると、何も形には残りません。

結婚して家庭を持つとか、子どもを産み育てるとか、一緒に何か作るということをしないのですから、当然のことですが、何も残らないのです。

でもこれが、私が選んできた道です。今の私の姿は、私自身が選んだ結果です。”(p200)

とこれまでを(前向きに)述懐され、

” 私は女優ですから、つらいことや心の葛藤は、演じればいい。演じるだけでいい。

泣いたり怒ったり、悲しんだり悔やんだり、そういうネガティブな感情はお芝居で使いきる。そしてふだんの生活では明るい面だけ見て、暮らしています。”(p204)

との今のご心情を綴られています。

後日、ご本人にお話しをうかがえる機会を予定していることから、本で得られた感覚を持ちながら、十朱幸代さんの言葉に触れてみたく思います。


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