榊原英資さんがデータを使って解き明かす燦々たる日本:『榊原英資の成熟戦略』読了

『榊原英資の成熟戦略』を読了。マスコミ等で、ミスター円の異名を取る元財務省の役人で、

書店で立ち読みした際の感じが良く、電子書籍(kindle)の値段が約26%の値引きで割安感を抱いての購入。

本を読み進んだ真ん中あたりの経済、金融の歴史に言及した部分は脱落しましたが、

データをもとに様々な著者の考えに触れる事が出来ました。

「成長国家」ではなく、視点を「成熟国家」に切り替える

「失われた20年」といった、日本経済に関する形容が聞かれますが、大前提として著者は・・

” 二〇年前から日本に訪れた変化を「停滞」ではなく「成熟」と捉えています。 ・・中略・・ 経済的にはまさに「安定」であったと言えるでしょう。” (5%/紙の本でいうところのページ数に相当/以下同様)

この事は ⇒

” 明治以来増え続けてきた日本の総人口も二〇〇八年前後にピークを迎え、それから数年を経た今は減少局面に入っています。

二〇一三年一月一日の日本の総人口は、概算値で一億二七四六万人。前年より二〇万人減少しています。

高度成長期は四十年前に終わり、それに続く安定成長期も二〇年前に終わりました。その間ずっと増えていた人口も、五年前に頭打ちになっています。

日本が今、迎えているのは「成熟期」なのです。その象徴が人口増加の終わりと経済成長率の低下です。” (5%)

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経済の側面をみると ⇒

” 二〇十二年の数字で比較すると、日本の一人当たりGDPは四万六七三六ドル。ドイツ、イギリス、フランスの一人当たりGDPを上回り、

人口四〇〇〇万人以上の国に限れば、アメリカの四万九九二二ドルに次いで、世界のナンバー2です。” (9%)

日本の特徴として経済格差の小さい点が指摘され

” 加えて日本は、国内の所得格差が比較的少ない国でもあります。貧富の差のめどとして、「上位一〇%の所得÷下位一〇%の所得」で比較すると、

日本は先進国の中でも、ドイツ、フランスと並んで最も低いグループに属しています。

国民一人当たりのGDPがトップクラスで、国民の間の経済格差の小ささもトップクラス。

この二つの数字を合わせてみれば、つまり「日本の庶民は、世界の庶民の中でも最も豊かな庶民である」とも言えるのです。”

この状態を分かりやすい状況で説明すると ⇒

” 極めて豊かになってきているのにそこそこの成長率を維持出来ているということは、

「モノ」がだんだん過剰になってきているということなのです。” (62%)

ビジネスの局面においては ⇒

” 国内にとどまってシェア争いしている限り、規模の拡大も利益の拡大も難しい。そこで成長を望む企業は必然的に、海外に進出しようとします。

目を世界に転ずれば、M&Aなどで巨大化した世界企業が覇を競っており、「自分たちももっと大きくならなければ、飲み込まれてしまう」という焦りが生じます。

「停滞は悪。成長し続けなければ競争に敗れ、市場から退場を余儀なくされる」というのが、民間企業の発想です。” (6%)

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この事は裏返しの面があり、

” 政府関係者が期待しているように、円安によって今後、製造業の日本回帰が進むかといえば、それも望み薄です。

なぜなら日本はすでに人口減少の時代に入っていて、この先、市場が大きく伸びるとは考えられないからです。

企業が新しく生産基地をつくるなら、この先、人口が増え所得も増えて、市場が大きく伸びるであろう国や地域を優先するのは、当然のことです。

それはつまり、東アジアやインドなどの新興国ということになります。” (21%)

こういった傾向が、日本企業に与えた影響として ⇒

” 世界的な競争の中で、新興国に比べて高い日本の人件費をコストダウンしなければ、日本企業は生き残っていけなかった。

正社員の雇用を守りながら経営を続けていくために、企業はやむを得ず非正規雇用を増やす形をとったのです。” (23%)

で、日本人の多くが認識している財政赤字について・・

” 歳入不足が深刻な一方、歳出の大幅な削減は事実上、不可能です。というのも日本の場合、歳出の多くを占めるのは年金や医療費だからです。” (24%)

” 日本では現在、収入のうち税金と社会保険料の負担が四〇%程度 ” (42%)

” 日本は早晩「税金を上げるか、福祉を切るか」という決断を迫られることになります。” (24%)

昨今、株式市場で起こった事は ⇒

” 株高の主役となったのは海外の投資家です。東京証券取引所の発表によれば、海外投資家は二〇一三年に一五兆一一九六億円も日本の株式を買い越しています。 ・・中略・・

経済全体が成長しない中で、株価だけが上がり続けることはありません。海外からの投資の増加によって起きた今回の株高は、その意味で一過性のものです。” (25%)

これらの事によって ⇒

” 日本経済は成熟しました。賃金も物価も、新興国との市場統合が進む中では、上がることはありません。インフレは起きないし、国民の所得も、もうこれ以上は伸びません。

それで問題はないのです。所得ついていえば、すでに世界の最高水準に達しています。今の日本は世界で一番豊かで、一番安全で、一番健康で、美しい自然環境に恵まれた国なのですから。

問題は経済が成長しないことにあるのではなく、政治家、さらに国民のメンタリティが昔のまま変わらないことにあります。” (28%)

ここで「美しい自然環境」と出てきましたが

” スーザン・B・ハンレーは「一八五〇年の時点で住む場所をどちらか選ばなくてはならないなら、私が裕福であるならイギリスには、労働者階級であれば日本に住みたいと思う。」/ 『江戸時代の遺産—庶民の生活文化』中央公論社 四六〜四七頁” (76%)

であったり、

” プロシャの商人リュードルフはハリスより一年早く下田に来航したのですが、彼は近郊の田園について次のように述べています。

「郊外の豊穣さはあらゆる描写を超越している。山の上まで見事な稲田があり、海の際までことごとく耕作されている。

恐らく日本は天恵を受けた国、地上のパラダイスであろう。人間がほしいというものが何でも、この幸せな国に集まっている」(渡辺京二、『逝きし世の面影』八三頁)(78%)

” 南に繁栄する米沢の町があり、北には湯治客の多い温泉場の赤湯があり、まったくエデンの園である。

『鋤で耕したというより鉛筆で描いたように』美しい。米、綿、とうもろこし、煙草、麻、藍、大豆、茄子、くるみ、水瓜、きゅうり、柿、杏、ざくろを豊富に栽培している。

実り豊かに微笑する大地であり、アジアのアルカデヤ(桃源郷)である。

(中略)彼らは、葡萄、いちじく、ざくろの木の下に住み、圧迫のない自由な暮らしをしている。」(イザベラ・バード/『日本奥地紀行』一九七三年、一五二頁)”

と、文献に残る形で海外からここまでの高評価があったとは!

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この時代を生き抜いていくためには・・

” 一流大学を出て大企業に入ればそれでハッピーということ、一生安泰だという時代は終わりました。

自分しかできない技能を身につけ、ある意味で「職人」になることが求められています。

今や職人として自分を磨き続けなければ、一生安泰というわけにはいかないのです。” (46%)

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以上の事を総括する形で、著者の

” 現代日本については、成長率が低下し、人口も減少し、悲観論が多いようですが、筆者(榊原英資)の見方は異なります。

成長段階を経過した成熟国家として日本を見てみれば、日本は明らかにトップランナーです。” (90%)

見解が示され、問題は・・

” 先進国の中で、所得の再分配率が低いのはアメリカと日本。 ・・中略・・

日本政府にとって現在最も重要なのは、デフレ脱却や成長促進ではなく、所得の再分配をどうするかなのではないでしょうか。”

と問題提起され、本が締め括られています。

データを読み、視点を切り替える事で、映される日本の姿

本の購入前に、Amazonの読者レヴューを見るなり、購入意欲を削がれ(苦笑)

自分にとっては経済史的なところは敷居は高かったですが、語られる意見にデータの裏付けがあり

個人では学びが多く、経済、金融分野に留まらず、日本の持つ天然資源であったり、様々な分野に言及が及び、本書を通じて、今まで知らなかった日本について学べる方も多かろうと思いました。


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