オーストラリアを日豪関係に40年以上に携わる田中豊裕さんに学ぶ一冊「勤労者天国と呼ばれるわけ」:『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』おさらい ⑥

『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』のおさらいの6回目。

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今回は「ハッピー & ラッキー・カントリー」と題された第五章からです。

章の中で取り上げられている内容を記載すると、

産業構造(全体の8割がサービス産業)、勤労者天国、経済改革、税金 (贈与、相続税なし)、資源大国である点などについて。

まず、その中で「勤労者大国」を掘り下げると・・

「勤労者天国」オーストラリア

” 1856年に世界で初めて8時間労働を確立し、1907年に最低賃金制度をつくり、週の基準労働時間が38時間と決められた。

さらに、残業手当に関しても早い時期に制度として確立した。現在、州によって多少の違いはあるが、平日の残業に関しては大体最初の2時間は50%増し、その後は2倍増しである。

また週末出勤に関して、土曜出勤は最初の2時間50%増しで、それ以降は倍、日曜出勤は、最初から2倍である。

さらに祝祭日出勤は、2.5倍増である。また、年間4週間の有給休暇には17.5%の割増金が給付される。

希望すればさらに4週間の休暇が取れる。この場合は普通の給料の半分が支給される。

病気休暇も5〜15日取得でき、幼児の養子縁組による特別休暇、出産、介護、教育のための特別休暇も完備している。

また無休休暇に関しても、その理由によるが長期にわたって取ることもできる。たとえば、親の介護のため1年間休み、その後同じ職場に復帰できる。

さらに勤続年数に応じて長期勤務休暇が支給される。たとえば10年以上継続して勤務している従業員は、年2ヵ月の有給休暇、

その後継続して勤務すると5年ごとに1ヵ月の休暇が与えられる。つまり30年同じ勤務先で働くと、6ヵ月の有給休暇が支給される。

35〜40年勤続し、会社の金で1年かけて世界一周旅行に行ってきたという筆者の友人や知人も少なくない。

会社によっては配偶者の費用も負担したり、小遣いをくれたりするところもある。こんな気前のよい国は他にないだろう。

この国は勤労者天国である。この背景には、入植当時から人口が少なく、労働者市場であったことと、早い時期から強い職能別労働組合活動があったことによる。”(位置No.1510、1518)

1850年:最初の労働組合の創設

1891年:二大政党制を担う一翼の労働党の創設

1904年:労働者の高賃金を保証する強制調整仲裁制度の設置

という流れを辿るも、労働者にとって条件が良いことは裏を返せば経営者にとっては厳しいことがいえ・・

” 1980年代になるとアジア地域の経済成長が著しく、オーストラリアの製造業の競争力が極端に貧弱になった。

国際化の波がオーストラリアにも押し寄せ、それまでの労使関係の見直しが強く叫ばれた。

伝統的に賃金と生産性の関係は虚弱であったので、賃上げは生産性にリンクすべきだという考えが支持されるようになる。

1990年代になり、ビクトリア州で公務員の週末出勤、有給割り増しの廃止、クローズドショップの廃止、労働争議の制限などが決められた。

1994年には連邦労働関係法の改正があり、従来の職能別労使協定から、企業別、職場別協定に移行していった。

そして、企業と労働者の個別雇用契約が認められ、雇用・昇進において労働組合優先条項も削除され、労働組合が弱体化することになった。

この結果、従来の硬直的な紛争多発型の労使関係が改善され、組合の弱体化と柔軟な人材調達、配置による技術革新の導入が促進され、生産性を高めることに貢献するようになる。

以前はストライキが日常茶飯事であった。何週間も公共の乗り物がストップしたこともたびだびある。

オーストラリアの労働組合は職能別組織であるので、同じ会社の中に多くの違った職能の組合が存在し、その中の1つでもストライキに入ると組織全体に影響が出る。 ・・中略・・

さすがに最近ではストライキも少なくなり、ストライキ天国も様変わりである。

実際、1980年の終わりに約1,500県の労働争議が発生していたものが2007年には135件まで減少した。

また、職場における組合の組織率も、1993年には37.6%だったのがその10年後には22.9%まで下がっている(同じ時期、日本では、24.3%から19.7%に、労働組合組織率の最も高いスウェーデンがが83.9%から78%にそれぞれ下落している)。

オーストラリアでは、いわゆる労働者社会から中産階級が多数を占める社会に変遷してきた過程において意識変化が起きたのである。

もちろん、国の政策、女性の労働市場への進出、契約労働者、パートタイマーなどが増えたことなども影響している。”(No.1528、1537、1546、1555)

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労働条件の改正は幾度も行われているものの世界的にみた好条件は維持されており、勤労者天国と称される所以となっています。

国際的な競争力という点ではマイナスに働いているのが実情といえますが、それは自国民の価値観に基づいて決せられるもので、

オーストラリア人が仕事とプライベートの折り合うところの望むところを政治で忖度し、今があるということなのでしょう。

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オーストラリアと日本の最低賃金の開き

なお、最低賃金について日本との比較があり・・

” 最低賃金は連邦、各州によって決められており、多少の違いがある。オーストラリアの成人は21歳なのでここでいう最低賃金のベースは21歳以上の成人で、21歳以下1歳若くなるごとに10%ほど低くなる。

また、州によってはベースが一律ではなく、職種によって最低賃金が定められているところもある。

また、職能、職責によって最低賃金の上乗せがある。たとえば、南オーストラリア州で決められている最低賃金は、全職種対象の一律設定で次のとおりである。

正規・パートに適用し、週当たり501.40ドル、時給13.19ドル、不定期労働者の方が高くて、時給15.83ドルである。

20歳だとこれらの90%で、19歳だと80%になる。成人の時給は日本円で1,500円になり、日本のレベルの約倍である(日本における平成21年の最低賃金は一番低いのが長崎、宮崎、沖縄の629円で、一番高い東京でも791円で全国加重平均が713円。)

日本の最低賃金は、その国力、先進各国と比較しても低すぎる。最低賃金を大幅に引き上げ、

今社会問題化している格差、ワーキング・プア、若年層フリーターや、契約社員などの厳しい生活環境を改善し、個人消費の高揚を誘導して経済の活性化を図る必要がある。”(No.1582、1591、1601)

というもの。

両国の物価の隔たり(オーストラリアが高くて、日本は低い)に、それぞれの賃金水準が反映されていることは指摘されますが、

日本企業の多くが近年、過去最高益を上げても、労働者に恩恵が享受されていない事実、実感は広く共有されていることで、著者の田中豊裕さんのご指摘に妥当性はあるといえるでしょう。

長くなったので、その他の要約は次回に譲ります。

 


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