オーストラリアを日豪関係に40年以上携わる田中豊裕さんに学ぶ一冊「多民族、多文化の光と影」:『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』おさらい ⑳

『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』のおさらい編、第20弾〜

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残すところ二章まできて、今回は「第九章 多民族、多文化国家」の初回(内容の抜粋)です。

移民受け容れの背景と進捗

” (オーストラリアは)もともと、ヨーロッパ、特に、イギリス、アイルランド、スコットランドなどからの移民でできた国だから、

最初から異なる民族、異なる文化で構成されていた。

基本的にはイギリスを中心にした西ヨーロッパのアングロ・サクソン民族である。これは第二次世界大戦が終了するまで続いた。

第二次世界大戦終了時には人口はまだ1,000万人弱に過ぎなかった。戦後、太平洋戦争中に日本軍に攻められた体験を基に、

広大な大陸を守っていくには人口の急増が急務であった。そのため、少なくとも自然増1%、純移民増1%、年間計2%の人口増を目標にした。

移民の内容も当初の未熟練労働者の確保から熟練労働者、ホワイトカラーに重点が置かれ、技術、経営、資本の導入の必要性が強調された。

今日では、移民の出身国も世界隅々にまで広がって多種多様になり、人口2,200万人のうち約25%は、

オーストラリア以外で生まれた移住者で、出身国も200ヵ国を超すようになった。

1960年代には、移民の半数がイギリス、アイルランド生まれであったが、

今日では、その割合が減少し、アジア太平洋地域、アフリカ、中東諸国からの移民が急増している。

多い出身国では、ニュージーランド、中国、南アフリカ、インド、インドネシア、イラクなどである。

そしてここ20年の経過を見ると、中国からの移民が6倍に増え、2008年の統計では31万人に、またインドからの移民は、同時期に4倍増え、同年の統計では24万人になっている。

また、それよりも急増しているのがアフリカの国々で、その増加率も半端ではない。

国内で話されている言葉も200以上、宗教においても伝統的なキリスト教に加え、イスラム教、仏教、ヒンズー教などの信者が急増している。

オーストラリアは、第二次世界対戦前までのアングロ・ケルト民族(イギリス、スコットランド、アイルランド、ウェールズなど)主体の国から、

世界でも珍しい、多民族・多文化国家に急速に変身することになった。”(No.3739-3767/数値は電子書籍のページ数に相当、以下同様。)

差別撤廃の建前と本音

人種構成が変わる中で、マジョリティであったアングロ・サクソン民族から移民への差別が社会問題化していった結果・・

” 1975年に人種差別禁止法が制定され、人種、文化、肌の色、宗教、出身地のいかんを問わず、差別をしてはいけないと法律で決められた。

しかし法律で決められても実社会の中では依然差別は存在し、意識の中では人種偏見が顕在しているのである。

人種差別は、表面的には解消されたようであるが、オーストラリアでの理想的な、真の多民族、多文化国家になるための終わりなき実践がまだまだ続くであろう。”(No.3813)

試行錯誤の過程で目指す先は・・

” 多文化主義に関する政府の指針の中で一番重要で、その後の各種政策の基礎になっているのは、

1989年労働党政権によって発表されたもので、多文化主義に関する基本理念は次のようになっている。

「① 個人の文化的背景の表現、共有の権利。② 人種、性別、文化、宗教、言葉、出生地などの障壁を除去し、全オーストラリア人が、平等で公正である権利。

③ 全オーストラリア人の技能、能力の発展、維持、利用を高揚させること 」などである。そして時代が進むにつれ、政策内容も移民主体から社会全体の共生共栄プログラムとして進展している。”(No.3813、3822)

光と闇の部分で

” 政府の同化・融和政策も成功裡に行われ、移民がオーストラリアの経済発展に大いに寄与した。

国民も大いに多文化の恩恵を享受している。もちろんすべて物事が順調に進んだわけではない。

戦後まもなく、南ヨーロッパからの未熟練労働者の急激な移住増加で、犯罪など社会生活に問題が生じたことも事実である。

しかし、米国などで起きている問題にまでは発展しなかった。

これは、まさしくオーストラリアの伝統的な、平等主義、フェアゴー精神、メイトシップが発揮され、

移民の同化・融和、そして共生共栄が社会に根付いて成果を上げている証である。”(No.3822)

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高まるアジアのプレゼンス

” アジアからの移民も1970年代から盛んになり、現在全人口の10%になろうとする。

日本からの移民も年々徐々にではあるが増え、豪州社会の中で活躍するようになってきている。

今後もアジアからの移民は、全移民の40%近くで推移していくと予測されている。

現在の予測では2025年までにアジア人は、オーストラリア全人口の20%近くになるといわれている。

しかし、多くは2世、3世の世代で、この世代はオーストラリアで生まれ、肌の色が違っても同じ言葉を話し、

西洋文化に抵抗がないので、社会に同化、融和する上であまり問題がないと思われる。

オーストラリアの将来を考えても人口の増加は国策である。さらに国力をつけ、マーケット、需要の拡大を図り、税収を増やし、海外からの投資を推進し、

また軍備費の増加、国防の改善などのためにも、今後移民の役割は重要になってくる。”(No.3831-3840)

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変わりゆくオーストラリア

広大な国土を守るために人口増の必要に迫られ、そこに歪みは出ているものの

オーストラリア人特有のメンタリティにより、他国と比較して何とかなっている状況。

その中でアジア色が強まっており、日本もその潮流の中にいるわけですが、次回は「オーストラリアのアジア化」について取り上げたいと思います。

 


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